なお、NEXCO東日本社長、NEXCO中日本社長宛にも郵送しました。
以下は、その声明です。
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2021年3月25日
こんな住民・人命無視の報告を認めていいのか!
東京外環トンネル施工等検討委員会・有識者委員会報告(2021.3.19)等についての声明
外環ネット
東京外環道訴訟原告団・弁護団
他12団体
東京外環道訴訟原告団・弁護団
他12団体
昨年10月の調布市住宅街陥没事件以来、検討が進められてきた、東京外環道の事業者、 国、NEXCO東日本、NEXCO中日本による「東京外環トンネル施工等検討委員会有 識者委員会報告書(以下「報告書」)」が2021年3月19日に発表されました。
マスメディアは「調布沈没 地盤調査を強化 周辺1000戸補償へ」(20 日付読売新聞)などと大きく報道し、一定の評価をしています。しかし、私たち被害当事者を含む沿線住民は、根拠もデータも不十分であり、出来もしない再発防止対策を並べただけの、かくも住民不在・人命無視の報告が公然となされたことに怒りを覚え、強く抗議します。
私たちは、このような報告をもとに、あいも変わらず漫然と地下の作業を続行し、シー ルドマシンの掘削を再開しようとする事業者、施工者を認めるわけにはいきません。都市計画による工事の期限も迫った今、この際、問題の所在を正面から見据えて、外環道工事の中止、大深度地下法の廃止の決定に踏み切るよう、改めて要請します。
報告書の最大の問題は、「特殊な地盤条件から引き起こされた特別な作業」に起因し、「施工が要因」と宣伝し、根拠さえ不明な「地盤補修工事」によって、問題は終わったことにして、掘削再開を計画していることです。
住民が住んでいる地下の工事は、リスクゼロでなければなりません。
「施工に課題があった。それがミスかどうかはご判断いただきたい」「リスクはゼロにはできない。リスクとコストのバランスを取るのが技術者」「『住民がリスクを負わなければならないのはモラルに反する』と言われるなら、すべての工事はできない」―といった小泉委員長の発言は、この工事の事業者、施工者の一員であるものとしての責任を放棄 しています。
責任者として発言権を持つ者が、人間や自然に対して謙虚に、真実を追求していく技術者としての自覚を欠いている上に、この工事が無承諾・無補償で個人の住宅の地下を掘っていることの認識のなさに愕然とする思いです。とうてい許されるものではありません。
実際に陥没事故が起き、空洞が生まれている。それを「ミス」と言わずに何と言うので しょうか。ミスがなくてもこうした事態が起きるというのでしょうか。
技術者の尊厳と誇りは、どのような条件の下でも、リスクゼロに限りなく近づこうとす るところにあるのだと思います。いま21世紀の半ばに近づく時代、人命や健康を損ねたコストとのバランス論は認める訳にはいきません。まして、住民に生命や生活のリスクを負わせる工事にどんな正当性があるというのでしょうか。私たちは、こうした事業者、施工者、そしてその責任を分担する技術者の、住民無視の姿勢をあくまで糾弾するものです。
以下、主要な問題について、私たちの見解を明らかにし、広く市民に訴えます。
1:事件は解明されたか ―問題と責任の所在
住宅街での陥没とトンネル直上の空洞の発見は、社会に大きな衝撃を与えました。既に 問題は単なる「事故」ではなく「大深度トンネル地盤破壊事件」と言うべきものです。その原因を追究し、問題を明らかにするのは、事業者、施工者、そして、工事に許認可を与えた者の社会的責任です。「有識者委員会」は、その究明に当たる最初の専門組織であるはずです。
しかし、報告書では、陥没・空洞がどう起きたかのメカニズムについては、一定の記述がされていますが、その事故が起きるにいたった作業については全くといっていいほど明らかにされていません。
つまり、報告書は事故の原因・責任を現場の「施工の課題」に矮小化し、地盤状況把握のための事前の調査不足や「添加材や圧力等を調整し、安全な掘進方法を確認しながら掘進」するとして東久留米層における大断面トンネル工事に採用した気泡シールド工法の欠陥等を棚に上げ、事件の責任がどこにあるのかは明らかにしていません。
また、振動・騒音・低周波音については、甚大な物的、人的被害が出ているにもかかわらず、被害地域や苦情件数・内容も公表せず、原因究明も再発防止策も不十分で、改善効果のデータもない対策を記載しているだけです。納得のいく科学的合理的な内容ではありません。
さらに夜間・日曜休日作業禁止の東京都環境確保条例違反を犯していた反省もありません。
低周波音被害にあっている感度の高い住民にとっては、一時避難先の提供は被害回復対策にはなりえません。振動・騒音・低周波音の垂れ流しはこの工事の破綻を自白するものです。住民に健康被害を与え平穏な生活を破ることが前提の人権侵害の工事は、到底許されるものではありません。なお、動かせない建物や分水路や水道管、ガス管等の地下インフラは、どこにも一時避難できません。
こうした原因調査は、事業者に属する有識者委員会ではなく、事業者から独立した専門家による調査、検討が必要です。
また、未完の技術を扱う巨大プロジェクトにおいては、技術的な調査だけでなく、組織全体のリスク・マネージメントや倫理面、法令順守の観点からの検討が不可欠です。
安全軽視の組織体質のまま、これ以上杜撰な工事に住民を巻き込んで行う事は許されません。 シールドトンネル工事は確立された技術とされていましたが、大深度・大断面の「スケール・デメリット」が考慮されていなかったという初歩的なミスは、厳しく指弾されるべき です。
改めて指摘しますが、今回の陥没事件は、長年にわたる公共工事の中でも前代未聞の大事件です。一歩間違えば死者が出ていました。事業者も施工者も、そして工事の許認可者もこの事実を確認し、責任ある対応をすべきです。
2:大深度地下法の問題性 ―法的意味を説明せよ
今回の「陥没」事件の本質は、「地上には一切影響を与えない」としていた大深度地下の工事(シールド工法)が、地表及び地盤に損傷を与えることが明らかになったということであり、無承諾・無補償(事前補償無し)で他人の土地の地下の使用を許す大深度法自体の違憲性は、もはや議論の余地はないことを明らかにしたものです。事業者が「今後は 注意深く工事を行う」と言っていること自体、工事が地表及び地盤に損傷を与えることを認めるものであり、違憲無効な大深度法に基づく大深度地下使用認可は無効です。
私たちは以前から、このことを主張し、裁判でも訴えてきました。
事業者が検討すべきことは、こうした事実をそれこそ法的立場、社会的立場から総合的に検討し、工事の中止と大深度地下法の廃止に動くことです。
また、事業者は、住宅の破損などについて補修すると言っています。人的被害についても、疾病等の治療費を補償すると言っています。
しかし、加害者である事業者が、被害者に対し一方的に、因果関係を判定し、地域を限定し、個別に対応するとしていることを認めることはできません。
これは、憲法29条に規定された財産権を制限する代償としての補償ではなく、民法709条による「不法行為」によって与えた損害に対する「賠償」です。事業者はこうした 問題について、一切触れようとせず、住民をごまかそうとしています。
事業者は、陥没や空洞の応急手当や地盤改良についても、自らが実施することを当然としていますが、そもそも所有権は地権者にあり、大深度の都市計画区域の使用権は事業者にあったとしても、その上の土地・地盤については、地権者の承諾、補償が必要です。
事業者が法的手続きを経ないまま、勝手に補修計画を組み立て、工事の再開を目論んでいるのは違法です。地権との協議なしに、2年という期間を設定すること自体暴挙です。
3:「仮移転」は何のためか、誰のためか ―仮設住宅か、安全な新居か
報告書は、地盤陥没箇所を中心に地盤改良し、工事を実施すると述べています。
住宅が建っている地下の「地盤の改良」は容易ではありません。有識者委員会は「陥没発生のメカニズムを解明し、そこからこの先の掘削をどう進めたらいいかを検討するよう託された」とのことで「修復に関しては世間一般で行われているので範疇ではない」と責任を回避しています。
しかし、これだけ広範囲で、しかも大深度の地盤改良の先例は示されておらず、既存の 工法で成功する保証はありません。地盤改良は、地面の中にコンクリートの壁をつくり、トンネルに沿ったダムとなり地下水を遮断し、周辺の地盤に大きな影響を与えるものです。
記者会見では、住民の意思を無視して「仮移転」が検討されていることが明らかになりました。
「仮移転に要する費用も補償する」としていますが、被害者に「仮設住宅で2年 間暮らし、終わったら戻って生活してくれ」と言うのでしょうか。しかし、それで本当に 安全な地盤になって安心して暮らせる住宅がもどるのでしょうか?住民が求める住宅建て替え、買い取りを含めた生活再建の提案はありません。
そして、地盤の緩みや地盤沈下は、トンネル直上だけでなく、入間川東側の地域にも広がっています。このことの原因究明は不十分です。さらに、陥没・空洞・地盤沈下を起こした南行トンネルの東側に近接して並行する北行トンネルの工事が再びこの地域に深刻な被害を与えるおそれがあります。報告書は東側地域住民を無視しており問題です。
4:住民は第三者ではなく権利者である
今回の事件について、報告書全体を通読して感じることは、事業者も有識者委員会も住民のことは一切無視したまま、十分な説明をせず、問題を処理しようとしていることです。 東京外環道問題が議論されていた2000年代、国と都は、「パブリック・インボルブメント(PI)」と称する住民との共同決定のシステムを提起しました。議論の途中で国、 都側は住民との話し合いを一方的に放棄して、事業促進の手続を進めました。真面目に参 加した住民 PI 委員は利用されるだけの結果に終わってしまいました。その後も、住民に対する説明は形だけで今日に至っています。
しかし、東京外環道に限らず公共事業での住民は、第三者ではなく、権利者であり当事者です。
しかも大深度法は、権利者排除の法律です。私たちは、事業決定以前から、事業者との協議、交渉の場を求めてきましたが、いまに至ってもその要求には応じず、数多くの疑念にも答えていません。
情報を隠蔽せず公開し、説明責任を果たし、住民の疑問に誠実に向き合っていれば、このような事態にならなかったはずです。
このままでは同様の失敗を繰り返すだけです。住宅街での陥没、空洞という未曾有の事件を起こしてしまったいま、住民との話し合い抜きに事態の解決は不可能です。
5:いま求められる政治決断
―工事延伸申請の取り下げ・不認可、工事中止、大深度法廃止しかない
国、NEXCO2社は2月19日、東京外環道工事の都市計画事業について、2021 年3月31日までとする期限を延長する「事業期間延伸申請」をしました。東京外環道訴 訟原告団・弁護団は、昨年12月に期間延伸差止請求を提訴しました。東京地裁は東京外 環道大深度地下使用認可無効確認等請求訴訟と併合して審理しています。
外環道事業は、2014年3月に、大深度地下使用認可と都市計画事業承認・認可を受 けています。しかし、酸欠空気の噴出や騒音・振動・低周波音、陥没・空洞・地盤変動など、認可当時とは全く違う条件が発生しており、この変化を無視しての延伸の決定はありえません。
既に、違憲・違法の大深度地下法の論理は破綻し、大型公共事業としての道路建設の大義も壊れ、建設の継続はゼネコンの利益と施政者のメンツ以外何も残っていないのが実情 です。住民は人権侵害され続けています。国・都はこの都市計画事業の期限切れを契機に、この計画を断念すべきです。
私たちは、改めて住民無視の報告書に抗議するとともに、これまでのやみくもな開発行政と決別し、真に国民、住民のための公共事業による国づくりに大きく転換させることを求めます。
以上
・外環ネット
・東京外環道訴訟原告団・弁護団
賛同団体
・とめよう「外環の2」ねりまの会
・元関町一丁目町会外環対策委員会
・外環道検討委員会・杉並
・外環を考える武蔵野市民の会
・市民による外環道路問題連絡会・三鷹
・外環道路予定地・住民の会
・調布・外環沿線住民の会
・野川べりの会
・外環道検討委員会
・外環いらない!世田谷の会
・東名JCT近隣住民の会
・東京外環道訴訟を支える会
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推薦:浜 矩子(同志社大学教授) あけび書房
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