「1」東京外環道の3事業者宛
「東京外環道のシールド掘進工事再開中止、及び調布陥没地域の住宅地破壊をやめること(抗議・要請)」
「2」沿線自治体の首長宛
「東京外環道のシールド掘進工事再開中止、及び調布陥没地域の住宅地破壊をやめることを事業者に要請することを求めます」
東京外環道のシールド掘進工事再開中止、及び調布陥没地域の住宅地破壊をやめることが必要な理由
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(1)住民に偏った情報を与えるだけの、工事再開ありきの説明会
最初に、1月20日付「コロナまん延防止期間中の外環事業説明会の中止又は延期を求める[緊急要請]」を無視して、住民を危険に曝すにもかかわらず、形ばかりの説明会を開催したことに抗議する。住民無視、工事優先の体質がここにも表れている。
青梅街道ICの計画地にある練馬区の元関町一丁目町会と外環対策委員会は、町会住民の説明を受ける権利、直接質問する権利を奪う説明会に強く抗議して、1月28日の説明会をボイコットし、やり直しを求めた。
本来なら説明会の少なくとも1週間以上前に示し、事前に質問を受け付ける等の対応をすべき分厚い資料を、説明会直前に公表し、技術中心の早口説明1時間と、紋切り型の回答で終わる30分の質疑応答、会場でできなかった質問にメールで回答する形式は、工事再開のためのアリバイ作りの儀式でしかなかった。
住民の質問や意見を受け止めて再考する姿勢がみられなかった。
「怒号が飛び交った」とメディアが報道した三鷹の会場では「同様の陥没事故再発の可能性はゼロか」との質問にゼロと言い切れない回答が象徴するように、今回の説明会の内容に住民が納得できないことは当然である。
技術的な説明でなく、調布の住民が受けた被害について説明を求める質問があった。それは住民が一番知りたいことであるが、それに応える説明会ではなかった。
調布市民を原則参加対象者から除外したことは、他地域の住民に対する事業者の一方的な宣伝の場であり、「不都合な真実」である陥没事故の被害を知る住民の意見を排除したいがためといえる。
武蔵野市での説明会では、武蔵野市議会外環道路問題特委員会の委員長らが、特別委の総意として「今回の説明会が納得いくものであるとは感じていない」と強調した。
(2)被害の全貌を説明してない不完全な報告書
今回説明された『再発防止対策』は、昨年3月に公表された事業者の有識者委員会の報告書(以下「報告書」)とそれらをもとに昨年12月にまとめられたシールドトンネル施工技術検討会(以下「検討会」)の「シールドトンネル工事の安全・安心な施工に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」)をもとに東京外環トンネル施工等検討委員会(以下「検討委員会」)が昨年12月24日にとりまとめたものである。
しかし、報告書は、2020年10月に調布市東つつじが丘で起きた陥没事故による被害(大別すると3種類@AB)のうち、@「トンネル直上の陥没・空洞」の推定メカニズムなどの調査結果だけの報告書に過ぎず、様々な態様の被害ABについてはほとんど何も解明していない。
約700m x 200m東京ドーム3個分の広さの「補償対象地域」約一千戸の、A「家屋や地盤損傷」、B「振動・騒音・低周波音による深刻な健康被害」については、それらの被害規模も実態も機序も明らかにされていない。
つまり客観的調査に基づかない不完全な「欠陥」報告書であり、それをもとにしたガイドラインも「欠陥」品である。
家屋や地盤損傷については、機序を調査せず、説明会の質疑応答で「トンネル掘進による地表面変位や振動の影響により生じたものであることの否定は難しいと考えられます」と回答しただけである。ただ家屋等の上辺だけ物理的な修理をしているが、緩んだ地盤上であれば一時しのぎにしかならない。
振動・騒音・低周波音による後遺症を伴う深刻な健康被害については、事業者は被害件数さえ公表しない。住民自身が被害実態調査を行い、また、外部の専門家の協力を得て「外環振動・低周波音調査会」をつくり、詳細の聞き取り調査を行った結果、はじめて大問題であることが明らかになった。調査会はさらに、工事との因果関係の解明のために振動等の測定を行っている。大泉や中央JCTでも測定網を張り巡らせる必要がある。被害住民がこのようなことを何ゆえにしなければならないのか。「住民に寄り添う」というが、事業者や行政が怠慢だからではないのか。多くの被害が出ているのに、また、外部の専門家から「振動が地盤を破壊した」「震度4の振動があった」や、「健康被害は長期微振動による」などの推測がされているのに、環境基準を満足するからといって、十分な調査もせず、根拠のない効果のわからない再発防止対策をつくるだけでは、振動被害は間違いなく繰り返される。
(3)「信ぴょう性は薄い」と外部の専門家が指摘する報告書
事業者の報告書では、陥没・空洞の発生は「特殊な地盤」と「施工上の課題」が原因とのことだが、地質調査も不十分で、そもそも地盤がわかっていないし、上総層群のどこにでもある地層を適切に掘削することさえできなかった稚拙な施工能力の言い訳にすぎない。
気泡シールド工法を採用したことも、技術情報不足のうえに適切な判断が出来なかったことの表れである。掘削土量の管理値を+/-10%から+/-7.5%に変更することも確かな根拠があるわけでない。
トンネル直上約220m x 16mの「地盤補修範囲」以外の地表でも今も異変が続いていることから、直上のみに地盤の緩みがあるとの説明は成り立たない。
また、@陥没・空洞推定メカニズムについて、「特殊な地盤」と土砂の取込過ぎなどの「施工上の課題」とすることに、外部の専門家から異論が出ている。1月17日の「外環問題を考える緊急シンポジウム」で出された会議声明は、「ネクスコおよびその有識者委員会の説明の信ぴょう性は薄い。さらなるわかりやすく根拠のある説明を求める。」、「専門家提言として、気泡方式を断念して、ベントナイトの使用を薦めたい。これが工事再開の第1条件である。」などである。
事業者は、1月17日のシンポジュウムに招待されたが出席しなかった。また、住民説明会で出されたこの異論について事業者の見解を求める質問に対する回答は、外部の専門家の意見を受け止める誠実な態度ではなかった。報告書が科学的合理的な根拠やデータに基づかず、学術的とはいえない代物であることを覆い隠そうとする態度であった。
(4)「欠陥」ガイドラインは工事再開の口実づくりのためであり、外環陥没事故を再発・拡散する恐れがある
国土交通省が昨年9月に設置した検討会が12月に策定した「ガイドライン」は、過去の事故事例をもとに作成されているが、少なくとも外環陥没事故事例は上述のとおり事実を直視しない「欠陥」報告書に書かれている内容でしかない。
従って、それをもとにしたガイドラインも欠陥品であり、そのガイドラインをもとにした再発防止対策もまた欠陥品である。
また、検討会の「設立趣意書」及び「規約」には「周辺地域の安全・安心の向上を図るため」とあるのに、ガイドラインの目的では、「周辺地域の安心の確保」に後退している。周辺地域の安全の確保なしに安心も得られない。住民にヒアリングしていない。
つまり、ガイドラインは、住宅地の地下工事に適用できる代物ではない。このガイドラインを適用する他の事業でも外環陥没事故同様の事故を招く恐れがある。
(5)住宅地の工事に最も必要なことは住民の安全。住民より工事を優先する事業者
報告書は被害の全貌を明らかにしてない不完全なものであるだけでなく、住民が8月以降騒音・振動の苦情を訴えていたこと、9月半ばには家屋の損傷が発生していたこと、また、トンネルの先端で発生している閉塞などのトラブルを隠蔽し、住民の被害を放置し、原因を何ら説明せずに、無視し続けてきたことについては、報告書に一切記載がない。
その結果起きた陥没・空洞についての説明をしているだけである。工事を施工する組織の安全管理上の問題の調査が完全に欠如している。つまり、住民の安全・安心第一は口先だけで、住民軽視のマネージメント、リスク管理の欠如についての反省が全くない。それどころか、特殊な地盤であるとか、施工上のミスであると責任転嫁する。この隠蔽、無責任体質こそが陥没事故の最大の原因である。
すなわち、危機意識の欠如である。それを自覚しない以上、再発防止対策は住宅地の地下に適用するに足りない「欠陥」品である。
まず、事業地内での掘進から再開するとのことだが、振動・騒音・低周波音等はトンネルから100mも離れた住民にも影響を与えている。事業用地内の工事においては周辺住民に対する事前の説明会が必要ないとの対応は許されない。振動・騒音は周辺の住宅街に伝わる。そもそも事業用地内の掘進で何の課題が解明されるのか示されていない。
なお、これは、大深度地下法とつながる問題である。
(6)陥没被害地において住民合意なしに地盤補修を行うことは許されない。家屋解体しかり。
陥没から1年以上経過した今も調布の被害地域では、トンネル直上以外でも地表面の異変、地盤沈下などの被害が進行している。「仮移転」という名の住宅取り壊しやその先の地盤補修工事により住宅地が壊され、工事現場となる住宅地で振動騒音等の環境被害が発生するであろうが、その影響を受けながら暮らしていく被害地域の住民には、この先数年の見通しさえも説明されていない。まず、被害地域の後始末を完全につけるべきである。
25日からいきなり家屋解体工事を開始する旨のお知らせは許されない。
振動・騒音・粉塵・アスベスト等の環境影響だけでなく、地盤が緩みきった陥没・空洞埋め戻し地域なので、解体工事の振動等により近隣の住民には家屋が崩れる不安さえある。
地域住民への丁寧な説明や合意なしに一方的に、人々が生活している住宅地の中で櫛の歯を抜くように解体工事を行うことは、街壊しそのものであり、許されない。
(7)シールド掘進再開の前にすることは、事業の透明性と住民への説明責任を果たすこと
以上述べたように、調布の被害地の復旧も見通せないまま、不完全な報告書と不完全なガイドラインをもとに、12月24日の検討委員会が策定した再発防止対策は、不完全なものである。住民にとっては無意味なばかりではなくむしろ有害なものである。
まともな「再発防止対策」ではないにもかかわらず、それをもとに、大泉JCT3台と中央JCT2台のシールド工事を再開することは、練馬から三鷹までの沿線に食い散らかすように事故を拡大する恐れがある。多くの沿線住民を調布と同様の事故の危険に曝すことになり、無責任極まりない。
工事再開の前に、事故調査結果の根拠やデータの全面的な開示、事業者から独立した外部専門家による検証、事故の被害補償を含む住民への影響について、住民の納得がいく説明が必要である。
(8)沿線自治体は、住民の安全安心を第一に、事業者の計画・行為のチェックを(沿線自治体宛のみ)
沿線自治体は、陥没事故直後に、住民の安全・安心の観点から事業者に原因究明等の要請をしている。
今回のシールド工事再開に同意するにあたっては、報告書や再発防止策が要請内容を満たしているか、事実と矛盾がないか、合理的科学的根拠やデータに基づき自ら検証するべきである。
また、シールドマシン等の振動・騒音等は関連法や東京都の環境確保条例にもとづいて事業者を指導・監督すべきである。シールドマシンは都条例によれば、平日の午後7時から翌朝7時まで、日曜休日は24時間稼働禁止されている。
以上
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